トレーシー島にあるブレインズの工房。
様々な工作機械が並ぶ中に、1本のコンベアの両側に産業用ロボットアームがずらりと並ぶラインがあった。稼働するライン、テキパキ動くロボットアームとモニターを見守るブレインズ。
そこへふらりと立ち寄ったゴードン。
「やあブレインズ、今日は何を作ってるんだ?」
「今日は新しく組んだ汎用自動組立ラインのテストをしているんだ」
「へえ。で、何を…あっ、素敵なイスがあるじゃないか」
ゴードンは目ざとく赤い大きな椅子を見つけると、どっかり腰を下ろした。

「おおっ! いいねえ、このたっぷりサイズ。リクライニングは、ここか」
「あっ、それまだ強度試験が終わってないから…」
「背もたれ最高!」ぐいーっと背伸びをする。
「そ、その角度でフル荷重はやりすぎ」
「まさかもたれただけで壊れるようなモノ作ってないだろ」
「そりゃそうだけど、実用段階では余裕を持たせた安全基準で」
「いやー、いいよこれ。2号に積もう!」
「まだ試作品なんだけど」
「え? じゃなんであんなにたくさんあるんだ?」
ゴードンが指さす先には、ラインの端に10脚ほどの赤い椅子が並んでいた。
「これラインのテストだから、工程の再現性も確認しないと」
「なるほど」
「……でも、ちょっと大きすぎたかな」
「いや。完璧だ」
そこへやってきたアラン。
「あっ、ゴードンいいねそれ」駆け寄って椅子に飛び乗ると
「わあ、回る回る」
アランと一緒にミンミンも来ていた。
「あっ、ちょうどいいところに来た。ミンミン。今度居住区に置く大テーブルにこの椅子ピッタリだろ?」
ミンミン、椅子を見る。ゴードンを見る。
もう一度並んだ椅子を見る。
「……それ、何脚あるの?」
ブレインズがニコニコしながら「10脚」
「ほら! ちゃんと全員分あるだろ」とゴードン。
「こんなの10脚も置いたら歩くところなくなるでしょ!」
「いや、詰めれば入る」ゴードンはメジャーを持って寸法を測り始める。
「回転式だから、固定椅子より乗り降りは楽かもね」アランが回りながら言う。
「あのテーブルは幅460、前に3脚、両側に1脚ずつ椅子を置くの。この椅子幅1m近くあるじゃない。回転しなくなるわよ」
「確かに。動線と必要回転半径まで考えると、これはちょっと――」
「ブレインズ、今気づいたの?」
「いや、これは工作ラインの試験だから、寸法はあまり考えてなくて」
「それを10脚も作ったの!?」
「じゃあ一脚だけ置こう」とゴードン。
「ダメ」
「端っこに」
「ダメ」
「ゴードン専用で」
「なおさらダメ」
「……わかったよ」しょんぼり立ち上がるゴードン。
ミンミンは「分かればよろしい」という顔で先に工房を出ていく。
扉が閉まったのを確認して、ゴードンがすっとブレインズの横へ。
「……捨てないで置いといてくれ。後で取りに来るから」
数日後、4号コンテナの片隅に巨大赤シートが1脚。
ゴードンはビーサン姿でふんぞり返り、飲み物片手にご満悦。
ミンミンが4号コンテナへ入ってきて、黙ってゴードンを見つめる。
「…………」
「これは救助活動の長時間待機に必要な装備だ」
「誰が決めたの?」
「現場責任者」
「バージルに聞いてくる」
「待て待て待て!」
結局、コンテナに置いた巨大椅子は見逃してもらえた。


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