男子寮物語 第9話「大きな椅子」

トレーシー島にあるブレインズの工房。

様々な工作機械が並ぶ中に、1本のコンベアの両側に産業用ロボットアームがずらりと並ぶラインがあった。稼働するライン、テキパキ動くロボットアームとモニターを見守るブレインズ。

そこへふらりと立ち寄ったゴードン。

「やあブレインズ、今日は何を作ってるんだ?」

「今日は新しく組んだ汎用自動組立ラインのテストをしているんだ」

「へえ。で、何を…あっ、素敵なイスがあるじゃないか」

ゴードンは目ざとく赤い大きな椅子を見つけると、どっかり腰を下ろした。

「おおっ! いいねえ、このたっぷりサイズ。リクライニングは、ここか」

「あっ、それまだ強度試験が終わってないから…」

「背もたれ最高!」ぐいーっと背伸びをする。

「そ、その角度でフル荷重はやりすぎ」

「まさかもたれただけで壊れるようなモノ作ってないだろ」

「そりゃそうだけど、実用段階では余裕を持たせた安全基準で」

「いやー、いいよこれ。2号に積もう!」

「まだ試作品なんだけど」

「え? じゃなんであんなにたくさんあるんだ?」

ゴードンが指さす先には、ラインの端に10脚ほどの赤い椅子が並んでいた。

「これラインのテストだから、工程の再現性も確認しないと」

「なるほど」

「……でも、ちょっと大きすぎたかな」

「いや。完璧だ」

そこへやってきたアラン。

「あっ、ゴードンいいねそれ」駆け寄って椅子に飛び乗ると
「わあ、回る回る」

アランと一緒にミンミンも来ていた。

「あっ、ちょうどいいところに来た。ミンミン。今度居住区に置く大テーブルにこの椅子ピッタリだろ?」

ミンミン、椅子を見る。ゴードンを見る。
もう一度並んだ椅子を見る。

「……それ、何脚あるの?」

ブレインズがニコニコしながら「10脚」

「ほら! ちゃんと全員分あるだろ」とゴードン。

「こんなの10脚も置いたら歩くところなくなるでしょ!」

「いや、詰めれば入る」ゴードンはメジャーを持って寸法を測り始める。

「回転式だから、固定椅子より乗り降りは楽かもね」アランが回りながら言う。

「あのテーブルは幅460、前に3脚、両側に1脚ずつ椅子を置くの。この椅子幅1m近くあるじゃない。回転しなくなるわよ」

「確かに。動線と必要回転半径まで考えると、これはちょっと――」

「ブレインズ、今気づいたの?」

「いや、これは工作ラインの試験だから、寸法はあまり考えてなくて」

「それを10脚も作ったの!?」

「じゃあ一脚だけ置こう」とゴードン。

「ダメ」

「端っこに」

「ダメ」

「ゴードン専用で」

「なおさらダメ」

「……わかったよ」しょんぼり立ち上がるゴードン。

ミンミンは「分かればよろしい」という顔で先に工房を出ていく。

扉が閉まったのを確認して、ゴードンがすっとブレインズの横へ。

「……捨てないで置いといてくれ。後で取りに来るから」

数日後、4号コンテナの片隅に巨大赤シートが1脚。

ゴードンはビーサン姿でふんぞり返り、飲み物片手にご満悦。

ミンミンが4号コンテナへ入ってきて、黙ってゴードンを見つめる。

「…………」

「これは救助活動の長時間待機に必要な装備だ」

「誰が決めたの?」

「現場責任者」

「バージルに聞いてくる」

「待て待て待て!」

結局、コンテナに置いた巨大椅子は見逃してもらえた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました