劇中の「大きさ」はどうやって感じるか

オリジナルのサンダーバードを見ていて、機体の大きさに揺らぎがあることに気が付いた話をした。
今回は、具体例を示して画像分析していくとともに、ヒトの視覚が画像の中の物体の大きさをどうやって認識しているかを考察していく。

と書くと、何やら難しそうに思えるかもしれないが、要するに

「なんか思ったより大きいな」「想像より小さいぞ」「なんで?」

というお話なので、気楽にお付き合いください。

3号の本当の大きさは?

まずこの画像から。誰もが知っている3号の発射シークエンス。

ラウンジのソファがそのまま沈んでいき、レールを走って3号の底部からエントリートンネルを通って搭乗するシーンは、一度見たら忘れられない衝撃だった。

巨大な3号のサイズは、全長:87.48m、エンジンナセル間の全幅:24.38m

この画像で分かるのはエンジンナセルの幅と人間のサイズ比較。
〇〇mという数字よりも、見てわかる巨大感、これが大切だ。

実際に画像に定規を当てて測ってみると、ちゃんとスケール通りに作られている。
だからこの画像を3号のスケールの基準とする。

そして搭乗するとこの後すぐに発射となる。

ラウンドハウスの謎

ドーナツ状の建物、ラウンドハウス。トレーシー島のゲストハウスだ。その真ん中を通り抜けて発進する3号。

山の中の発射口が何気なく開いて飛んでいくのではない。普通の住居型の建物の中庭が開いて、建物の円環の中を巨大なロケットがギリギリで通り抜けていくのである。ここにゲストとして泊っていて、真ん中を3号が轟音とともに上がっていったら腰が抜けるだろう。それはともかくとして―

ここで素朴な印象。「3号さっきより縮んでない?」

なぜそう見えるか。最初の写真で搭乗した時の3号のサイズに比べて、建物がそんなに巨大に見えないのだ。

設定には建物のサイズまで記載されていないが、ガラス窓の内側は二階分あり、バルコニー下にも一層ある。3号が中を通り抜けるのだから、本当は大きな建物だ。

そこで先ほどの3号の全幅:24.38mをこの画像にあてはめて、建物のサイズを実測・計算してみる。具体的に言うと、モニターに定規をあてて測ってみたのだ。

するとこの建物の直径は約75m。それはいいとして、手すりの高さは約4.4m。
え? 
そして階段の蹴上、つまり一段の高さは1.8m。
ええええ?!

ぱっと見は何もおかしくない。ドーナツ型の建物とそこを通り抜けるロケットの写真だ。
しかしそこに、設定された3号のスケールを当てはめるとおかしなことになる。

なぜこうなるか。手すりと階段だけが実際のスケールより大きいのだ。

現実の手すりは高さ約1m、階段1段の高さ=蹴上は20cmほど。

ヒトの視覚は、見慣れたものを大きさの基準とする。ここでは手すりと階段だ。3号や建物は大きさを知らないので、自分が知っている手すりや階段から推測することになる。

だからまず手すりや階段に目が行って、それを実際より大きなサイズだとは知らないまま基準にして、3号の大きさを類推しているのだ。

冒頭の画像が5号とヒトの正しい大きさ比率を表しているので、もう一度確かめてみてほしい。

参考までに、手すりと階段を3号のスケールに合わせて画像を修正するとこうなる。

建物がずいぶん大きく見えると思うのだが、いかがだろうか。

クリフハウスと2号

今度は2号の出動シーン。

2号格納庫ゲートの上にあるのはクリフハウス。これもゲストが泊るそうだが、夜中に2号が出動したら寝ていられないだろう。

実はこのシーンでも2号が設定の劇中サイズより小さく見えているのである。

建物をよく見てほしい。遠景では白い手すりのように見えていた格子は、2層分吹き抜けの大きな窓枠なのだ。本物の手すりはバルコニーの縁に、木質の横桟と白い桟が見えている。

よく見るとバルコニーには小さな椅子やテーブルらしきものも見える。

手すりの高さは、先ほどの3号とラウンドハウスに比べると違和感はないが、それでも計算すると1.5mある。やはり大きめだ。

それよりも遠景で白い大きな窓枠が手すりに見えていなかっただろうか?
私は子供の頃から、ずっと手すりだと思っていた。

この白い窓枠の高さは約6mあり、これを手すりだと思い込むと先ほどの3号ラウンドハウスの手すりよりもさらに大きくなる。これでは2号が小さく感じても無理はない。

なぜ巨大な手すりや階段を作ったか

ではなぜ、階段や手すりだけ実際と違うスケールのプロップを作ったか。

これは単に制作スタッフが間違えたとかは考えにくい。冒頭の画像ではきっちり設定どおりのスケールを再現しているからだ。それに、実際より機体が巨大に見える特撮用プロップならともかく、小さく見える撮影をしてどうするのか。

これは、ひとつには60年代のテレビ事情を考慮する必要があるだろう。

AIに当時のブラウン管白黒テレビの画質を再現させてみた。

解像度が低いので、手すりや階段の見え方が弱くなる。

左の3号とラウンドハウスの画像、手すりと階段を実際のスケールに合わせて小さくした修正版を、ブラウン管画像にすると下のようになる。右側は修正前のオリジナル画像。

建物の大きさは正しいスケール感に近づいたが、手すりと階段は線が細くなって主張が弱くなった。

解像度の低いブラウン管テレビ時代には、現在のHDや4K環境に比べて細かいディテールは目にとまりにくい。ましてコマ送りで何度も見返したりできない。一瞬で過ぎ去ってしまい、次は再放送を待つしかない。

だから、撮影するとつぶれて見逃してしまいがちなディテールは、デフォルメしてあえて大きくしていたのではないか。

手すりや階段は大きさを知る基準

架空の機体や建物が出てくる番組の中で、手すりや階段は、我々が日常で良く知っているものだ。
そしてサイズがいつもほぼ同じなので、ものの大きさを比較対照する目印になる。

視覚でとらえて大きさを認知するためのベンチマークと言ってもいい。
画面の中にそれが出てくると、まわりにある未知のものの大きさが一瞬で認知できる。

だから正しいスケールで配置してやれば問題はないが、スケールがずれると、周りの物も意図したよりも大きく見えたり小さく見えたりする。

手すりや階段の他にも、大きさ認知の基準となるものはある。たとえば旅客機の窓。

MSは自分で作ったグスタフ・カールを撮影してAIに渡したらアレンジが入った。大きさ比較の画像なのでそのままにしてある

「頭頂高22mのモビルスーツ」と言われてもピンとこないが、こうして並べるとその巨大さが分かる。

A380の実機を空港でご覧になったことのある方は、よくわかると思う。エプロンで他機と並んだ時に、ひときわ高くそびえる垂直尾翼が印象的だ。

380は見たことないし最近は減っているぞという方も、並んだ窓の大きさに注目してほしい。
尾翼だけだとMSとの比較もピンとこないと思うが、二階建ての窓を見てからMSを見ると、その大きさが実感しやすいと思う。

話をサンダーバードに戻す。

トレーシー島は秘密基地に見えてはならない

当時のスタッフが、あえてスケールを揺らしてまで手すりや階段を見せたかったのはなぜか。

トレーシー島は、表向きは、引退した大富豪が余生を過ごすために作った孤島のリゾート。だから、そこにある建物や施設が秘密基地に見えてはならない。

たとえば3号のラウンドハウスがこんなデザインだったらどうだろう。

スケールが問題になっている階段と手すり、それからうしろに見えていた石造りの暖炉の煙突のようなものを消してしまった。

モロに秘密基地、または宇宙連邦。建物ごと飛んでいきそう。

トレーシー島でこれはアウトだ。階段、手すり、暖炉の煙突がないと、人が生活しているリゾートの家に見えない。

手すりや階段は、サイズの基準となるだけでなく、人の住む家を表すアイコンなのだ。

トレーシー島そのものが、実際に大富豪が作ったプライベートリゾートだし、同時に国際救助隊の秘密基地でもある。豪華な嘘で壮大な真実を隠しているのだ。

ゲストが実際に宿泊できるリゾートであることはもちろん、たまたま近くを通りかかった飛行機や船、なんなら衛星から見ても、そう見えるのが理想なのだ。人は「あ、大富豪のリゾート島か」と思った瞬間、疑うのをやめる。

そしてこれは物語の中だけでなく、我々視聴者にもそう見えることを狙っている。

でも私たち視聴者は知っている。隠居した大富豪が作ったプライベートリゾートで過ごす一族が、実は驚異的なメカを駆使する国際救助隊であるということを。それがこのヒーローの魅力のひとつなのだ。

だからこそ、優雅なリビングで過ごすひと時から一転、秘密の扉からシュートやエレベーターで搭乗という非日常への変身に心が躍るし、スーパーメカを使った救助活動にも手に汗を握ることになる。

トレーシー・ヴィラのたたずまい

劇中でカメラが右から左にパンしていたのをつないで1枚の画像にした

階段や手すりのスケールで忘れてはならないのがここ。

トレーシー島の顔としていつも最初に出てくるのが、このトレーシー・ヴィラだ。
溶岩の岩肌に建てられたシンプルだが美しい建物。白い階段がプールに向かってゆるやかにカーブしながら降りていく。ヤシの木や豊かな植栽は気持ちのいい海風さえ感じさせる。

「ああ、なんと優雅な。こんなリゾートで過ごしてみたいな」と、毎回感じさせてくれる景色だ。

このセットでは、手すりはスケール通りだが階段が大きく作ってある。よく見ると1段が椅子ほどのサイズになっている。プールの飛び込み台も同様だ。

階段を小さく修正して白黒ブラウン管TVバージョンも並べてみた。

AIに、階段の段数を増やして蹴上を低くと指示を出したが、難しい。なんとなく細かくはなっているが細部はあやしいので、雰囲気だけ理解していただきたい。これでも階段だと分かるが、上のオリジナルの方が断然よく分かる。「ここに階段ありますっ!優雅なカーブでしょ?」という主張が一目見て分かる。

私はこの階段が大きいことも60年間気が付かなかった。

印象に残っていたのは「金持ちの優雅なリゾートヴィラ」だけだった。

スタッフが見せたかったものは

オリジナルのサンダーバードの映像は、60年たった今でもチャチな特撮には見えない。4Kリマスターされて色あせないどころかより鮮明に目に映る。それは優れたドラマ性や見事なカット割りだけでは説明できない。

特撮ドラマで、画面に映っているものは、もちろん現実のルポではない。

作り手が見せたかった世界の完成品かというと、実はそれも少し違うのではないか。

完成品は視聴者の脳内にある。

白黒ブラウン管TVであれ4K有機ELモニターであれ、映像は視聴者の脳内に作品世界を投影するための動く設計図なのだ。極端に言えば絵コンテにすぎないかもしれない。

だから、60年も手すりや階段のサイズ違いに気が付かず、今頃になってモニターに定規をあてて測って「大きい」とか「小さい」とか言ってみたところで、もうサンダーバードなんか見ない!とはならない。別の面白さが立ち上がってくるだけだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました